神戸大学事例

神戸大学 大学院工学研究科

准教授 村川 英樹 様 インタビュー

製鉄プロセスなどで用いられる液体金属内部では、気泡や流動現象が製品品質に大きな影響を与えます。
しかし、液体金属は不透明であるため、内部挙動を直接観察することは容易ではありません。今回は、熱流体、気液二相流、流体計測を専門とされる、村川 英樹 様に、液体金属中の気泡挙動に関する研究と、TPAC社装置の活用についてお話を伺いました。


ご経歴

  • 2006年3月
    東京工業大学 大学院理工学研究科 博士後期課程 原子核工学専攻 修了
    博士(工学)
  • 2006年4月~2007年9月
    日本学術振興会 特別研究員(PD)
  • 2006年6月~2007年9月
    レンセラー工科大学 客員研究員
  • 2007年10月~2018年3月
    神戸大学 大学院工学研究科 機械工学専攻 助教
  • 2018年3月~現在
    神戸大学 大学院工学研究科 機械工学専攻 准教授
  • 2018年8月~2019年6月
  • ヘルムホルツ研究センター・ドレスデン・ロッセンドルフ 在外研究

専門分野は、熱流体、気液二相流、流体計測です。


液体金属中の気泡挙動を超音波で可視化する研究

研究内容について

導電性を有する液体金属中を気泡が流動すると、気泡周りに液体金属の流れが生じます。さらに、この流れ場に磁場が印加されると、液体金属には電磁力が作用し、気泡の挙動そのものが変化します。

この変化は、磁場の印加方向や磁場強度によって影響を受けます。

本研究では、液体金属流れと気泡挙動、および電磁力との関係を解明することを目的としています。具体的には、静止した液体金属中を上昇する気泡を対象に、気泡径や磁場強度を変化させながら、気泡挙動の変化を評価しています。


超音波計測を用いた独自アプローチ

溶鋼のモデル流体として、常温で液体となるガリウム合金を使用しています。しかし、液体金属は不透明であるため、内部の気泡挙動を把握することは容易ではありません。

X線や中性子線を用いたラジオグラフィでも、計測が困難な対象です。

そこで、超音波計測に着目しました。

これまで独自に超音波トモグラフィ技術を開発し、計測断面を通過する気泡位置の評価を行ってきました。さらに、気泡の上昇軌跡や細かな揺動を評価するため、フェーズドアレイ超音波探傷器の応用を検討しました。

通常の超音波探傷とは異なり、本研究では計測対象である気泡が動的に移動することが大きな課題となります。

そのため、気泡の移動速度と、多数素子を用いた超音波スキャン速度を考慮しながら、素子配置や計測範囲を決定する必要があります。


なぜこの研究に取り組んでいるのか

連続鋳造工程では、不純物除去などを目的として、溶鋼内にアルゴンガスが注入されています。さらに、鋳型外部から磁場を印加することで、鋳型内の溶鋼流動を制御しています。
しかし、気泡が溶鋼内部にトラップされると、製品品質の低下につながる可能性があります。
そのため、磁場が印加された溶鋼中における気泡挙動を把握・評価することは、製品品質向上に向けた重要な課題となっています。
本研究では、液体金属中における気泡挙動と磁場との関係を明らかにすることで、製鉄プロセスにおける品質向上への貢献を目指しています。


TPAC導入の背景

従来の超音波トモグラフィでは、計測断面を通過する気泡の時系列データを取得することは可能でした。しかし、気泡が上昇する際の軌跡そのものを評価することはできませんでした。

そこで、他研究者による論文を参考に、多数の超音波素子を用いた計測によって気泡軌跡を評価することを考えました。

しかしながら、各素子に対して1台ずつパルサレシーバを使用する構成は現実的ではなく、フェーズドアレイ超音波探傷器の利用を検討しました。

フェーズドアレイ超音波探傷器について各社製品を比較した結果、データレート、データの取扱い方法、および価格面を総合的に評価し、TPAC社製Explorerを採用しました。

特に今回は探傷目的ではないため、画像化機能よりも、取得した波形データを直接扱えることが必須条件でした。


導入後の効果

TPAC社製Explorer導入後は、液体金属中を上昇する気泡軌跡を大まかに評価することが可能となりました。

現在は、さらに細かな気泡情報の取得についても検討を進めています。 また、TPAC社製品については、以下の点にメリットを感じています。

  • 計測パラメータ設定の柔軟性
  • 波形データ取得の自由度
  • 比較的安価であること
  • 後からFMC機能や同時送受信素子数を拡張できること

一方で、さらなるデータ転送速度の向上を期待しています。


今後の展望

本研究分野では、数値解析を検証するための評価データが非常に少ないのが現状です。

今後は、超音波センサをさらに工夫することで、液体金属中を上昇する気泡挙動に対する磁場の影響を解明するために必要な、さまざまなパラメータ取得を進めていきたいと考えています。

また、超音波計測技術の他研究分野への応用についても検討を進めていく予定です。


インタビューを終えて

液体金属という不透明媒体内部の現象を、超音波によって可視化しようとする村川准教授の研究は、超音波計測技術の新たな可能性を感じさせるものでした。

研究用途ならではの柔軟な波形取得や解析環境が求められる中で、TPAC装置をご活用いただいていることを大変嬉しく思います。

村川准教授、この度は貴重なお時間をいただき、誠にありがとうございました。


[インタビュアー:dB春田]